週末の朝、微かに雨が降っていたが、そのしとしととした音にむしろ心が落ち着く。今日は山へ紅葉を撮りに行く予定で、少しの雨なら構わない。カメラをバッグに詰め、雨具も忘れずに持って家を出た。心の奥には、紅葉の赤やオレンジがどんな光景を作り出しているのかという期待があった。
山での紅葉撮影
山に着くと、霧雨がかかる中で紅葉が鮮やかに映えていた。水滴を纏った葉がキラキラと輝き、まるで宝石のようだ。シャッターを切るたびに心の中の興奮が増していった。何枚か撮っているうちに、背後から声が聞こえてきた。
「拓也じゃない?」
振り返ると、そこには懐かしい顔があった。彼女の名は佐々木真由、かつて付き合っていた元カノだ。突然の再会に、思わず時が止まったような感覚に陥る。お互いに短い沈黙の後、軽く会釈をして、「偶然だね」と笑い合った。彼女もカメラを持っていて、どうやら同じ目的で山に来ていたらしい。
山の上のカフェでの再会
紅葉を十分楽しんだ後、山頂にある小さなカフェに足を運んだ。窓際の席に座り、コーヒーを頼んで外の景色を眺める。雨が窓を伝い、その向こうには霧の中で朧げに見える山々と色づく葉。すると、再び真由が現れ、「一緒に座ってもいい?」と尋ねてきた。
お互いの近況を話し、別れた後の道のりを共有した。彼女は写真家としての仕事が軌道に乗っているらしく、その表情はどこか誇らしげだった。かつての恋人と今こうして話すのは不思議な気分だが、それが心地よいと感じる自分がいた。話の中で、真由がぽつりと「満月の夜はいつも、何か特別だと思うんだよね」と言った。窓の外を見上げると、雨雲の間から満月が顔を覗かせていた。
過去と今を照らす満月
その満月を見つめながら、心の中で一つの詩が生まれた。
やや降る雨に にじむ満月 映すは過去と 今の隙間
思い出す声は 優しく響き 明日へと続く 淡い光
過去は変えられないが、そこから何かを学び、今を豊かにしてくれる。真由との会話を終えた後、別れ際に小さく手を振り合って再びそれぞれの道を歩き出した。夜が深まる帰り道、雨の舗道に映る満月が今夜だけ特別なものに感じられた。